30年

5月。
いよいよ、宮町から七日町への引っ越しが迫ってきた。
同じ市内、歩いても20分ほどの距離の引っ越し。なれど、僕たち家族はこの町からスタートした。

このアパートに入居したのは、結婚と同時。当時僕は会社勤めからフリーになり、しかも本業(となるべき)コピーライター業に専念するため、夜のバイトも辞めていて収入は月4万円程度、妻の給料だけで入れるアパートはここぐらいしかなかった。

幸いにも、というか不思議なもので、結婚と同時に仕事が順調に回り始め、結婚2年目に第一子も授かった。

一室を事務所代わりにしたアパートには、とにかく多くの人が出入りした。それこそ朝から晩まで。
そして、仕事のことよりも様々なことを話した。そのため、実際のコピーワークは夜中仕事になることが多かった。

予定日を過ぎてもなかなか出てこない第一子か生まれたのは、公私ともに仲良くしている営業マンが持ってきてくれた、気の早いメリーゴーランドのおかげだった。
やがて第二子も誕生し、家族4人がここで肩を寄せ合った。

友人たちにも恵まれた。
たまたま以前から知り合いだった夫婦が同じ町にいて、彼らと幼稚園の父兄が核になり、僕たちを受け入れてくれた。以来、長く濃い付き合いは今も続いている。

約30年。
この町が、僕たちを見守ってくれた。いろんなことがあり、解決していないこともあるけれど、この町とこの町の人が僕たち家族を今も支えてくれている。
だから、正直に寂しい。

寂しいぞー。